

長く住んだ家を建て替えるのではなく、一部を解体するリフォームは、建て替えに比べてコストを抑えられることがあります。また、【増築】や【減築】という方法にすることで、これまで慣れ親しんだ住まいを完全に取り壊さずに、これからも愛着を持って住み続けることができます。。
今現在、「もう少し部屋数を増やしたい」「使わなくなった物置部屋を減らしたい」と考えている方に、【増築】【減築】のメリット・デメリット、さらに注意点について紹介します。
Contents
一部を解体して【増築】するリフォーム
【増築】とはどのようなもの?
増築とは、その文字通り「増やす」ことです。建物の建て増しをしたり、床面積を増やすことで、居住スペースが広くなります。
<増築の種類>
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このほかに規模の小さな増築として、バリアフリーのトイレを増設するといったリフォームも含まれます。
増築する理由はさまざまですが、その目的は住みよい居住空間にリフォームすることです。
子どもが生まれ家族が増えたことで部屋数が必要になったり、自宅で仕事を始めたり、趣味の部屋の増設や高齢になった親と一緒に生活するようになるなど、ライフスタイルの変化によるリフォームで増築の機会が増えています。
増築のメリット・デメリット
増築を検討する際には、メリット・デメリットはつきものです。どのようなものがあるのか紹介します。
メリット |
※防火地域や準防火地域に指定されている場所の場合は、たとえ10㎡以内の増築であっても確認申請が必要 |
デメリット |
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増築の最大のメリットは、書類など事務的作業が少ないことと言えるでしょう。建て替えの場合にはいくつも書類の手続きが必要になり大変ですが、10㎡以内であれば必要ないという点は気軽に増築できる要素でもあります。
10㎡はどのくらいの大きさであるかというと、6帖間で約9㎡の広さなので、6帖間以内の増築であれば申請は不要です。
デメリットは、快適な暮らしを得る代わりに固定資産税が増えることです。床面積が増えるため建物の価値が上がるので、たとえ確認書類が不要な範囲の増築であっても増税対象となります。
増築の工法について
増築工事には大きく分けて「差しかけ増築」「おかぐら増築」「取り壊し増築」の3種類の工法があります。
【差しかけ増築】
外壁の一部を解体・撤去し、その部分を新たに増築する部分の接続部分として繋げる増築方法です。家族が増えて部屋数を増やしたいときや、浴室・脱衣所を広げる、トイレを追加するといった場合におすすめです。工事範囲が一部の外壁だけなので、比較的費用は抑えられ、仮住まいを用意することもなく、工事中も住み続けられる工法です。
しかし、既存の建物と新しく増築した部分の外壁の色合いや素材を合わせておかないと、見た目のバランスがとれない外観になってしまうので注意が必要です。
費用も抑えながらの増築が実現します。

【おかぐら増築】
平屋を2階建てや3階建てに増築するもので、屋根を解体しその上に新しく2階になる部分をかぶせて増築する、建ぺい率や土地のスペースにゆとりがない場合に向いた工法です。
屋根を解体して2階を増設するといった大掛かりな工事で建物全体の補強として梁や柱の増設が必要になるため、工事費用がどうしても割高になってしまいます。建物の状態によっては基礎部分を補強する必要が生じることもあり、リフォームというよりも建物自体の建て増しに近い工法です。

【取り壊し増築】
こちらは増築のなかでもかなり大掛かりな工法です。1階と2階、両方の一部を解体して行う増築リフォームで、新しい建物とつなぎ合わせることで大幅な床面積の拡張ができます。
建物が大きくなるので二世帯住宅を検討されている方に向いています。
一見、最初に紹介した「差しかけ増築」に似た工法ですが、「取り壊し増築」は既存の建物をそのまま拡張させるため、差しかけ増築に比べて費用は割増になります。
また、拡張させるリフォームになるため、既存の建物が古いと同じ外壁材・屋根材が用意できないこともあります。接続面積が広範囲になるので、増築とあわせて建物全体の外壁材・屋根材のリフォームをすることで外観の統一感を出すこともでき、外観を損ねてしまうといったこともありません。

増築の注意点
増築工事をしたいと考えたとき、希望通り増築できるとは限らず、注意しておかなければならない点がいくつかあります。場合によってはリフォームで増築できないこともあるのでおさえておきましょう。
法律の制限
増築を検討しても、法律によっては希望どおりの増築ができないことがあります。
建築基準法には「建ぺい率」とよばれる規制があり、敷地の広さに対して建築可能な建物の大きさに制限がかかってきます。敷地に余裕があっても、そのすべてを使ったような増築はできません。また「容積率」といって、敷地面積に対する総床面積の割合を制限するもの、「道路斜線制限」といって、建物の高さを制限するものなど都市計画の用途地域ごとに決められています。要件をクリアしているか、事前にしっかりと検討する必要があります。
増築が困難な既存不適格建物
先に、10㎡以下の増築リフォームの場合には建築確認申請は不要であるとお伝えしましたが、たとえ10㎡以下であっても申請が必要な場合があります。
増築を検討している建物が防火、準防火地域(※)にあるものであれば、その面積にかかわらず確認申請が必要です。
確認申請をするため、増築以外の建物においても建築基準法が適用されるため、既存不適格建物(※)であった場合は増築できないことがあります。
【防火・準防火地域】
都市計画法第9条20項において「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」として具体的に規制が定められている地域。建物の密集した場所などは火事の際延焼を防止するために幹線道路は火災のときに消防車など緊急車両の通行を妨害しないようにすることが目的。 主に駅前、建物の密集している地域、幹線道路沿いが指定されている。 |
【既存不適格建物】
建築した当時の建築基準法では基準に当てはまる建築であったが、その後の改正された建築基準法により、現在では基準を満たさない不適合な建物になってしまったものを指す。新しい法律に沿った工事も行う必要があるため費用が割高になることも。 |
増築する際は検討している建物の建ぺい率、容積率にゆとりがあるのか、法律上増築リフォームが可能かどうかをしっかり検討することが重要です。
また、築年数によっては増築するより建て替えを検討するほうがコストをおさえられる可能性もあります。増築と建て替え、双方のコストを比較してみるのもいいかもしれません。
一部を解体して【減築】するリフォーム
【減築】とはどのようなもの?
減築とは増築の対義語として使われる言葉で、建物の床面積を減らすことを指します。
一昔前とくらべて一世帯の世帯人数は減り、反対に一人暮らし世帯や65歳以上の高齢夫婦のみの世帯は年々増加しています。また、高齢夫婦世帯の8割が、高齢単身世帯の6割が持ち家戸建てに住んでいるという調査結果も出ました。広さが必要なくなった人が増え、近年減築は注目されてきているリフォーム方法です。
<減築の種類>
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さらに、国土交通省国土交通政策研究所の調査によると、最近では持ち家戸建て世帯の42%が減築に関心があることがわかりました。特に世帯主が50代、子どもが独立する層の世帯で関心が高い傾向にあります。
また、耐震性・断熱性・日当たりなど、今の住宅に問題がある世帯でも減築に関心がある割合が高いことがわかっています。
減築を検討されている方は今後身軽に暮らしたいなど、どのような暮らしをしていきたいかを考えてイメージしておくといいですね。
減築のメリット・デメリット
関心が高まっている減築ですが、「減築」と聞くと家が狭くなってしまうと心配する人もいるでしょう。
ここでは、減築のメリット・デメリットについてご紹介します。
メリット |
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デメリット |
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メリットの多い減築。高齢になれば身体的には掃除が楽になり、階を減らすことで足腰の負担が軽減されるのはとても助かります。
普段使用していない部屋の防犯はつい見落としがちです。必要な部屋数で防犯対策もしっかりできるのは減築の魅力ですね。
また、使われていない部屋にも発生していた固定資産税が減築によって減額されることで、老後の経済的負担も緩和されます。
しかし、規模の大きくなりがちな減築ではコストの面は外すことのできないデメリットです。木造建築の減築工事ではシロアリ被害が発見されるかもしれませんし、工事の規模が大きく工期が長くなる場合は仮住まいを事前に探しておく必要もあります。
減築する際の注意点
減築工事をおこなうと、思いがけない問題が生じることもあるので注意が必要です。いざ減築工事が済んだ時に慌ててしまわないよう注意点をおさえておきましょう。
減築したが増築扱いになる場合
減築工事と同時に増築工事をおこなった場合は、原則として「増築」扱いになるので注意が必要です。
例えば「2階建ての2階を取り壊し、1階を増築する」、「減築工事をした場所に車庫を設置する」といったリフォームは増築扱いになります。屋根があるようなタイプの車庫の場合、建築物扱いとなるため、10㎡をこえるようなものを設置する場合は確認申請が必要になります。
リフォーム前の荷物について
減築工事をすると、今まで使わなくなった部屋に収まっていた荷物や家財道具が収まりきらないということが起きかねません。いざリフォームが終わって引っ越しをするタイミングで収まらないといったことが起きないためにも、あらかじめ不要品などの処分をすすめ、荷物の選別をし、減らしておくといいでしょう。
一部を解体するリフォームをした場合の注意点
建物の構造チェックは必須
増築を検討するなかで重要なことが、既存の建物の構造が増築や減築へのリフォームへ適したものかどうかです。なかには構造上リフォームが厳しい建物もあるので注意が必要です。
在来工法
昔ながらの日本の建築工法で、柱や梁によって建物全体を支える構造になっている工法です。
柱など骨組みを組み立てた後に壁を取り付けていく工法で、仕切りになっている壁の撤去や移動がしやすいため、増築・減築ともにリフォームに最も向いている工法です。
2×4(ツーバイフォー)工法
2×4、一度はどこかで聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。この工法は在来工法の柱や梁で建物を支える構造とは異なり、壁で建物全体を支える構造になっています。構造上のルールを守ったプランでおこなえば、2×4工法の特性である耐震性を生かした増築・減築ともに可能な工法です。
鉄骨造(S造)
重量鉄骨の場合は間取りの変更はしやすいですが、逆に軽量鉄骨を使用した建物の場合は重量鉄骨に比べ使用する柱の本数が増えるため間取りの変更をするには制限が多くなってしまいます。
鉄筋コンクリート造(RC造)
柱や梁で建物を支えるラーメン構造(※)の場合、間取りの変更は対応可。しかし壁式構造(※)の場合は2×4工法の場合と同じ理由から制限が多いため不向きです。
【ラーメン構造】
ラーメン構造とは、柱や梁などの枠組みで建物を支える構造のことです。「ラーメン」とはドイツ語で「Rahmen(ラーメン=枠・額縁)」という意味です。 柱と梁の接合部分を固定(剛接合)することによって耐震性を高めます。 |
【壁式構造】
壁式構造とは、柱や梁などの枠組みで建物を支えるのではなく、耐力壁という厚く固い鉄筋コンクリートの壁で支える構造です。耐力壁を使用し、床と壁を接合します。 |
見積もりは複数とって業者選びは万全に
建物の一部を解体し、リフォームするというものは簡単なことではありません。費用をかけてリフォームするからには快適に長く住み続けることができる建物でなくてはなりません。そのためにもリフォームを依頼する際には業者選びはとても重要なものになります。業者のなかには「増築工事」を得意とし、実績のある業者もあれば「減築工事」に力を注いでいる業者もあります。業者選びは実績や評判をもとにじっくり選定するのもいいかもしれません。
また、見積は複数社からとり、比較することも重要です。
◆見積もりをとるときのポイント◆
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申請書類について
最後は「確認申請」についてです。増築や減築に必要になる書類は知識がないと難しく思うかもしれません。それぞれに必要になる条件が違うため別々に説明します。
増築時の確認申請
増築の確認申請で必要な書類は2点です。
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これらの書類は建物の新築時に、工務店やハウスメーカーなどの建築会社から渡されるものです。中古物件を購入した場合は不動産会社から受け取ります。
しかし、紛失してしまったという場合は建物の管轄の役所の担当課で「台帳記載事項証明書」を取得できます。この台帳記載事項証明書は検査済証を取得していることを照明する書類となっているため代わりになるものです。
既存建物の検査済証の写し
既存建物の検査済証とは、すでにその敷地内に建っている建築物が「違反建築物」ではないということを証明する書類です。
既存の建物がこの検査を受けておらず、検査済証が交付されていないと増築することが難しくなります。それは建築基準法に「違反建築物のある敷地に増築できない」という原則が存在し、検査済証がないということは建物が適合していることを証明できないからです。
なお、検査済証が交付されていない違反建築物と見なされている建物は速やかに建築基準法に順応するように改修工事をしなければいけません。そのため、是正工事を終えるまで増築のリフォーム工事は行えません。
したがって検査済証の有無は増築リフォームにとって重要書類と言えます。
既存建物の確認申請図書(副本)
既存建物の確認申請図書とは、認定書、設計図、見取り図など図面情報が記載されたものです。
既存建物を建てた当時の副本が残っていない場合は、建物の情報が不足するため、今回増築リフォームを担当する設計者が既存建物の図面を作成しなければいけません。既存建物の正しい図面を一から復元することは容易ではなく、かなりの労力を要します。
また、「同一棟増築」を検討している場合はこの副本はとても重要です。同一等増築とは、既存建物に接続して増築し、既存部分と増築部分が一つの建物となるように増築したもので、建築基準法の「防火避難規定」などの規定に適応させる必要があります。
副本がないと、増築リフォームの設計者は既存建物の情報が不足することで状況が分かりにくく、増築部分の設計の進捗に影響がでることもあります。
減築時の確認申請
「減築」のみのリフォームを行ったとき、多くの場合確認申請は必要ありません。
建築基準法第6条による「建築」とは新築・増築・改築・移転のことで確認申請が必要となりますが、このなかに「減築」は含まれていないからです。
しかし、すべての減築で申請が不要かというとそうではありません。2階建てだった建物の階数を減らし、床になっていた部分を屋根にリフォームするといった減築工事の場合は申請が必要となるケースがあります。
減築工事を行うにあたり、必要になるような大規模な耐震補強工事をする場合も確認申請が必要となることがあります。
すでにご紹介している通り、減築工事では同時に増築工事をした場合、原則的に「増築」とみなします。
- 2階部分を減築するリフォームをし、1階に増築した
- 減築して、空いた空間に車庫や納屋を増設した
このような場合は「増築」として扱われると考えておくとよいでしょう。
その他注意点
- 増築・減築に関わらず築年数が経過した建物ではシロアリ被害が発覚して、駆除や修繕の費用が別途かかることがあります。
- 床面積が変わるため工事完了後1カ月以内に登記申請が必要です。
まとめ
今回は一部を解体して増築・減築するリフォームについてご紹介しました。
【増築】
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【減築】
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住まいのリフォームといっても完全に建て替えてしまうものから、今回のように新たなライフスタイルに合わせた、一部を解体する増築・減築とさまざまなかたちのリフォームの仕方があります。今すぐではなくても、家族が増える、また老後を迎える前に、どのようにすれば快適な暮らしができるのかイメージしておくのもいいかもしれませんね。